第50章 ロッコンロール

グウイ~~~~ンギョワ~~~~イン~~

聞き慣れない不思議なサウンドが鋭く解き放たれた。
真っ黒に詰まった大気を切り裂くようにつぎつぎとオトが四方にとんで行く。

ガグィン~~~~ギョン、ギョン、ズンズンタッタ
ドケドカド~~~ンギクギク、ズンズンタッタ

id星は落ちつかない様子でヒュシーヒュシーと盛んに白い煙を吹き出しています。
表面には異様なラインがおし上げられて浮かびあがって来た血管の様に無秩序に現われてきました。

混乱は地球でも同じでした。
みんなが耳をおさえてしまう程の経験した事のないオトが突然ロッコから発せられたので唖然としてしまったのです。
だれもがロッコの意図を計りかねていたのです。
ミサイルも発射しない、
突然id星の好むオトがアロー号から発せられ、id星が簡単にそれらを取り込んでしまう。
地球の一部の人達には、戦況がどっちを向いてるのかさっぱり分かりません。
ギターを持ってid星に立ち向かったときは、世界中が驚嘆の声をあげました。
やがて興奮は大きな声援となり、
ロッコのいる宇宙に届かんばかりに地球がひとつとなっていったのでした、、。

ガキヨー~~~~ンドンズドンズト~~ン
クウクク_ワ~~~ンドンドチッッチドンドチッッチ
ロッコの持つ黄金色に輝くギターは、
立てたり横にしたりロッコの高まる気持を代弁するかの様に自在に操られ、
恐らくこのギターも経験した事のない複雑な音階を醸し出していたのでした。

ロッコは丸3ヶ月録音スタジオに閉じこもりました。対id星用のオト作りのためでした。
そして是非会いたい人物がいました。ロック界の巨人ボク・デロン(Boku・Deron)。鮮烈な勢いで20世紀を駆け抜けた伝説のROCKミュージシァン。100歳を越えなおも毎年記念コンサート“ファイナルツアーNo、36”と題して世界をまわっている。
85歳のとき体調を崩し“もうこれで最期”と、世界をまわったファイナルツアーが各国であっというまにSOLD OUT。彼の体調も公演ごとに良くなり、あのメガヒット作”Re Protested”の誕生となった。
ボブ・デロンはいまでも現役だ。再び80代のアイドルとなり、その後毎年続けて27年目を迎えたところだった。今はカラオケでしか聞かれる事のなくなったROCK.MUSIC。その精神の最期の継承者と言われているボク・デロン。

もちろんファンのほとんどは80代が中心だ。ボク・デロンと共に青春を過ごし今もなおROCK MUSICに郷愁を持つ世代だ。この“ROCK”Rock’n roll musicが生まれた時も世の中は大変だったらしい。エレキギターの登場と共に世界中の若者の心をつかんだ。アンプで増幅されたオトは強烈だった。
ただの騒音だ!! とても音楽とはいえない!
いや新しい音楽だ! とハゲシイ問題となった。

若者はやり場の無い怒り、叫び、反骨精神をこの増幅されたオトにぶつけたのだった。不良の音楽と言われ家庭でも学校でも社会でもつま弾きにされた音楽だった。それが21世紀を目前にして急速に失速していった。ついには、まったく耳にすることがなくなって過去のオトとなってしまった。

そのROCKに人生をかけてきたボク・デロンに会いたかったのです。
ROCKこそロッコが選んだ曲だったのです。
偉大なROCKの歴史に敬意をはらいつつ、ROCKを越える次のオトを見いだそうとしていました。
112歳になるボク・デロンは現役ROCKシンガーらしく熱く情熱的だった。
ロッコは自分の創った曲を聴いて欲しかったのでした。
何曲か選んだ自信作を聴いてもらった。

かつて聴いたことの無い曲調にさすがのボク・デロンもア然としてきいていた。
ROCKでしょう?
ROCKしてたでしょう?
ボク・デロンは笑ってロッコの肩に手をやり
「じゅうぶんだよ、、」
さらに
「ROCKかどうかは、ここできまるんだよ!」
と、ロッコの胸を優しく突いた
ここで!?
「そう!ROCKは生き様さ、、」
そういって帰っていった彼の後ろ姿はじつにカッコ良かった。

イ・キ・ザ・マ、、!?
またひとつ好きな言葉が出来た。

ドドンンダーダダンーガイーン

id星はすこしずつだがロッコの演奏に反応し始めてきた。
頭にはid星好みハゲシイオトを、後半はブルースの旋律をくみ合せたりして、さり気なく不快音から離れはじめていた。
ロッコがはっきりとリズムをきざみ始めると、僅かに体を左右にテンポよくあわせてくる。
ロッコはヤッター!と、心の中で騒ぎ、より強くタッチをつけて弾いてみた。
すっかりロッコの演奏に同調してしまっているid星はこの心地よさ、楽しさから抜け出す様子は少しもなく、オトに最期までついてくる。

地上ではロッコの演奏がさかんに解説され分析されていました。
ROCKを越えた、、、、
ROCKになかった、、、
ポップスの歴史が変わる、、、
不規則な調子にも段々慣れてきて、聴くものに緊張感さえ与える。
こんなロック聴いたことない!
誰かが叫んだ

“ロッコンロール(Rocco’n roll)だ!!”

え! ロッコン‘ロール!?
サッチーナが何かを見つけた様に目をキラキラさせて言った。
「素数、、よ。そう、間違いない、ほら、、、次のbarが17、、」
強い調子の音が耳に飛んでくる。
「ね!、、素数の時に変化しているの、、強く、ね!
すごい!! 宇宙で育ったid星にはとても心地いいはず素数は。地球ではむずかしいけど、、さすがロッコね!素晴らしいアイディアだわ。ほんとうにロッコンロールね」
天空の星達は新しいリズムに合わせて右に左に気分はすっかりユニゾン。
遥か彼方の星からはシャープな光のラインがロッコとid星をそれぞれ捉えステージのサスペンションライトの様にこちらもリズムに合わせて変幻自在だ、、
まるでこの日のためにリハーサルを重ねてきたのではないかと思える程、セッションは完璧を極めていきました。
ロッコの繰り出す新しいリズムはid星にとって気分を高揚させるものでした。
自分がこれまで体当たりしてきた時の衝撃音と似てはいるけど何か違う、いつもぽっかり穴があいた様な寒々とした気分がつきものなのに、ここではあんなにオトを浴びたのにとても気分は穏やかで暖かい。
ロッコはすべてを察知していました。出だしのオトもいつの間にか変わってきました。

クイ~ン~キュ~キュ~ン
もう猛々しいオトはありません。
しかし
id星はすっかりロッコの世界に酔いしれています。

ロッコは携帯してきた体力測定機を見た。
既に赤線をオーバーして限界値を超えている。
それにしてもid星の変貌ぶりには驚かされる。
これまでのヒールのイメージを払拭するかの様にこのショウタイムを楽しんでいる。
いや、むしろリードしている。
強面のid星にこんな柔らかな部分があるなんて宇宙の誰もが驚いている。
しかも奇妙だった彼から発する音、
ポニポニャポーン、ンダッターパーパパー
というフレーズが今や
クイーンクイーンシュワシュワシュワッチビヨービヨービヨーン
クイーンクイーンクワワワワンドンドンドン
という音を自ら作り出して発しているではないか。
もういいだろう。

ロッコは最後にid星をじっと見てうなずいた。
ロッコはもう立っているのが分からないくらい朦朧としてきた。息もできない、、
もうだめ、、、!
カラダは借りてきた他のモノのように自分が無い。
腰につけたアロー号との最期の絆を必死に外した。
解き放たれた白いロープは大気中を新しく自由を得た生き物の様に跳ね回りながら船体に戻った。
同時にゆっくりアロー号が動き出した。
ロッコはアロー号とは反対の北東に向かって人形の様に力なく飛んで行きました。
やがて朝焼けにかぶさる様に小さな光を発している東の星にロッコは吸い込まれて行きました。

同じ頃、太陽に向かっていたアロー号が激突しました。
しかし、7000度の高熱の前にはさしたる影響はなく
アロー号は跡形もなく消えてしまいました。

Epilogue

あれから70年。
満天の星にかこまれて燦然と輝く百番目の星座、
ロッコ座が今日も
やさしく見つめています。

“ホ~ホ~ホオォ~~~”
張りつめた空気を突き破るようにたまらず一番鶏が鳴いた。
固唾をのんで見守っていた
ここモランゴーニュを棲家とする生けるモノ達が
一斉に続いた。

ギ、ギ、ギ、、、ググググワッz、、、パシャパシャヒュウウウウ

村の人たちは老いも若きも皆外に出て、この出来事を見守っていました。
ようやく空が白々とあけてきた。
昇りかけた太陽は、未だ夢心地でまぁるい頭を少しだけ出し
この哀しみに包まれた小さな村をほんのり飴色に染めたまま様子をうかがっているようでした。

そのご婦人の落胆ぶりは、尋常ではなかった。
最後の力を振り絞りロッコ座にむかって何かを叫んで泣き崩れてしまいました。

婦人は森のざわめきにも、丘からの爽やかな風の後押しにも、
気づく様子もなく、すっかり重くなった足取りで
何度も何度も激しくむせび、立ち止まっては膝をつき、
祈るように両手をあわせては叫んだ。
「もう誰もいない、みんないっちゃった。独りになっちゃった! ルナまで、、、
うう、うううう~ん、、ルナ、ルナ、、」

胸にしっかり抱きしめられた白いネコは、いくど体を揺すられても、
ただ両の手から頭としっぽが精気をうしなったままこぼれ落ちるのだった。
しかし、さだめた時を充分まっとうした幸せな顔をしていた。

やがて生まれたばかりの
ひとつぶの小さな星がすごいスピードで北から現れ、
反転して東の空のロッコ座に寄り添うように肩のあたりにとまりました。

すべてを見ていた太陽が
安心した様にゆっくりとのぼり始めました。
その瞬間、ここモランゴーニュでは
あらゆるものがシャンパンゴールドに染まり
その眩い輝きはいつまでも続いていたという。

おわり