第49章 ロッコ 再び宇宙へ その1

大気圏もあっという間に越えて月に向かってすすんでいる。
ロッコはid星とどう対峙するか未だ悩んでいた。
“諭すんだ”と、いっても、そんな簡単にいう事を聞いてくれるはずはないし、、、。
でも、もしロッコの予想をはるかに超える存在だったら、、
ロッコがこのミッションに失敗したら地球は最初の激突でかつてない経験をする事になる。
推定地下60kmにまで激しく地球の核を揺るがし、衝撃は地球全体に及び、衝突地点を中心にして半径5万kmの周囲が火の海となり、生息動物のほとんどが息絶える。これを2度、3度と繰り返されたら間違いなく地球は滅亡する。

id星の出没に関して世界有数の天文学、物理学の権威が集まり、そのX日を特定するために、日々議論を重ねてきたが、結局、特別に招待されていたシドニード君がぽつりと言った。
“皆既日食の日じゃないですか”

え!、、、あ!、、オ!、、、
場内が騒然としたのも無理からぬ事だった。
こんな学生でも気づきそうな答えが誰の口からも出なかったのでした。
皆id星の質量にこだわり、まだみぬこの惑星を正面切って分析しようと、問題をより難しくしてしまっていたようでした。

“あのう、、、来月が52年ぶりの日食で7日の日が南太平洋のオロイ・ルロッカ(OroiiRurokka)島で多分、金環食が、、、”

太陽と月の間に隠れて近づくなんて、頭のいいヤツだ、、
ロッコは、この数ヶ月id星のことばかり考えてきました。
地球最大の敵。
でもid星を、知るにつけ哀れに思えてなりません。
id星の生まれ育った環境を考えると、“愛を知らない”ということが
id星の性格形成に大きく影響してるのは間違いない。
id星も生きていく為に必死なんだ!
ああいう生き方しかid星は出来ないんだ、、、、。

正面に、月が大分大きくなってきた。
あっさりと白チョークで塗り込まれた様に軽くたたずむ感じが楚々として美しい。
いつも地球をじっと見つめている。

この辺りにしよう。
アロー号を止め窓から月を見つめた。
id星はこの後ろに太陽を背中にして猛烈な勢いで地球に向かっているに違いない。
ロッコはアインシュタイン博士の理論を元にサッチーナと共同開発したSB(スーパービーム)のスウィッチを入れた。
真っ白い二本の光のラインがグラフィカルに宇宙を横切った。
月をとらえたそのラインはその周囲を確かめる様に包み込むと、月の裏側に潜む何者かに向かってたっぷりと照射していた。
ロッコは計器をみるまでもなく、光のラインをみてid星の存在を確信した。

いよいよだ、、。
ロッコは時が迫ってきた事を感じていました。
見上げると宇宙が大スクリーンとなってロッコの思い出の数々が次から次へと映し出されています。
それは4歳にも満たないネコの僅かな生涯の記録でしたが、、宇宙では、これから何かが始まる事を皆、予感しているようだった。まるで戦いの場を与えられたかの様に、月明かりに照らし出されて浮かんで見えるのは、ロッコとアロー号だけだ。
先程まで星だらけだったのに、いつの間にか遠くに場所を移している。

ロッコはスクリーンに釘ずけだ。
お父さんお母さん、チャンスウィンスキー博士、サッチーナ教授、他、ロッコが出会った総ての人が次々と目の前に大きく表れる。
ロッコは戦う前にセンチメンタルな気持を持ってはいけないと、しっかり記憶の中に焼き付ける気持で瞬きもせず見ていた。
でも、
ある事に気づいて笑い出してしまった。
きいちゃんだ!
何故かきいちゃんだけが、他のひとの写真のほとんどに参加して写っている。
さすがきいちゃん、と思った途端、
こらえていたものが一気にロッコの体中を小刻みに振るわせ、両目がうるうるしてきた。

その時、
ピピィ~~~~ィ
という警戒音とid星をSB(スーパービーム)が捉えた事を知らせる青いランプがビカビカ点滅しました。

id星だ。!

静かに戦闘服に着替え始めました。
ロッコの顔は見る見るうちに厳しく表情が変わり、やがて月明かりを浴びた月下の戦士のごとき雰囲気さえ漂わせてきました。
ロッコはアロー号の放つSBのモニターに目をやった。
SBによって、漆黒の闇夜に浮かび上がったこの物体は、未だ小さな黒点に過ぎないが驚くべきスピードで地球に向かっているのがわかる。
このまま行ったら地球は壊滅だ、、、。
なんとしてでも、、ここで止めなければ。
ロッコは肉球が汗ばんで来るのを感じていた。
最終的に決めた作戦は結局誰にも打ち明ける事はなかった。
不安はある。でも自分を信じなければ、、。

地上ではすべての人々、いまや地球を代表する人間という種は80億人にせまろうとしている。そのほとんどの人達が、いま、同じ時に同じ様に空を見上げて、あるいはテレビやプラネタヴィジョンの生中継で事の成り行きを見守りながら、ロッコを応援しています。

同じ地球人として気持はひとつになっていたのです。

ロッコは、ふう~ と体中から息をあつめて吐ききった。
同時に左、右と小さな鼻の片方づつから、ゆっくりと息を体にため始めた。
へこんだお腹が徐々にその形を取り戻してくる。
下丹田に小さく印を結んでいた手を外した。
すべてのものが集中してきて熱く、鋭い。
気が充実してくるのが分る。
画面のid星をちらっと見た。
もう形状もはっきり分る大きさになっている。
速い!
その宇宙では珍しい独特のラグビーボールにも見紛う様な形、、確かにid星だ。
画面に映し出されたid星は間違いなく地球に向かっている。
ロッコはわずかに抱いていた最後の期待は叶わなかったことを知った。
本気だ!、、本気で地球に向かっている。
ロッコの耳元にたくさんの人の言葉が交錯しています。
“ぬかりの無いよう落ち着いて”
“このSAR(スーパーアトミックロケット)は100km圏内に入ったら発射して下さい、、しかし、、、対象物に命中した瞬間凄まじい爆風があっという間に100km圏内まで巻き込みますので、、その、、、何とか、、逃れて下さい、、。”
“戦うことが、いかにむなしいことじゃか、、、諭せばいいではないじゃか、、、
おまえにはできるじゃか、、、おまえにはできるじゃか、、おまえにはできるじゃか”

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。

ロッコは決めていました。
地球の為にid星と対決するけれど決して“戦う”わけじゃない。
id星、不思議な星。
意志を持った星、でも
愛を知らない星。
そう、だからid星こそ“愛”を知らなければならないんだ!
哀しすぎるid星の境遇を思うと、何とか話し合って、、
わかりあって、、事前に、、
と思ってしまうロッコでしたが、少し赤みを帯びた目頭で画面をみて絶句した。
ううううあうあああ~~!!
で、で、でかい!!
もうすでに画面をはみ出したid星は肉眼でもロッコのこぶしより大きく、猛スピードで地球に向かっている。画面の下のずらりと並んだ数字の右端がまるで何かに追い立てられてるかのように、必死に数をいれかえている。地球までの距離を示すカウンターだ。
120kmかぁ!!
この時、地球からの連絡を知らせる黄色いランプが点滅した。
“こちら地球戦闘軍、こちら地球戦闘軍、、ブッチョ(buhcho)将軍、聞こえますかロッコ君!”

あ、、はい。こちらロッコです。
“おぉ!無事だったか。ロッコ君、標的がもうすぐ圏内に入る! 発射準備にぬかりの無いように。、、、、、聞こえてるかね、、ロッコ君!”