第40章 シドニード君

オーストラリアのローカル紙に小さく載った記事だった。

“1月19日未明、ニューサウスウェールズ州オレンジに住むシドニード君(15歳)巨大彗星(!?)を発見か!”

アマチュア天体ファンであるシドニード君の話。
「本当にびっくりしたんです、、、ボクの望遠鏡の中でどんどん大きくなって、、
もしかしてこっちに向かって来るんじゃないかと思ってWAuaaaA〜〜AAAHHと叫んじゃって、、
もうとっても大きかったんです。あとで計算したら半径が2000キロメーターはありました。
そしてあっという間に消えたんです。たぶん太陽の裏側にだと思うんですけど、、、、」

この情報は都市の大きな新聞社に真っ先に届いていたのだが、世界的天文台も、各国のヴェテラン天文関係者も誰一人確認したものがおらず、
“そんな巨大な彗星なんか考えられない”
“自ら身を隠したなんて、まるで生き物みたいな発言”
“嘘をつくのはよくない、アマチュアだからって、”
“子供の意見だ。真に受けてはいけない”
という注意を真に受けて黙殺していた。

しかし、ロッコは見逃さなかった。それは地球で憶えていた沢山のことが、宇宙ではガタガタと崩れて、まったく空っぽになってしまうことをロッコはよく知っていたからです。
だから宇宙でどんな不可思議なことが起きても、それは地球から見た意見に過ぎず、宇宙ではごく普通のあたり前のこととして過ぎていく。

180億年がたとうとしている。悠久の昔から宇宙は何も変わらない。ただひたすら広がりつづけている。
ロッコはシドニード君の記事の上に左手をおいて目を閉じた。ちょうど肉球で隠れる程の記事だった。しばらくすると、肉球が暖かくなってきた。同時に額の中心が熱くなり、沸々とイメージの断面が寄り集まってきた。
窯から出してだいぶ時間のたった赤煉瓦を砕いて、一面に隙間なく敷き詰めたような、光景が現れた。
特徴のある岩山を後方にどこまでも、尽きることがない赤い大地だ。
これがロッコのこの国のイメージだ。
ロッコはさらに場所を特定して、イメージを絞り込んでいった。
暖かい空気の漂う、のどかな景色が現れた。
澄んだ青空に黄緑色の樹々が整然と美しい。

ぶどう畑だ!
オレンジという町なのにぶどう畑!? ま、いいか。でも、きれいなところだなぁ!
町の中心に出てみた。みんな穏やかに過ごしてる様子がよくわかる。その中で独り足早に歩いている男の子がいる。15歳にしては小柄な少年だ。顔に似合わぬ大きな眼鏡が、いつも落ちて来るのが気になるらしく、それを始終上にあげるのが癖らしい。
うつむきかげんに、まだ頬にそばかすを残したとても利発な少年。シドニード君だ!
ロッコは瞬時に察した。シドニード君は見たんだ!
嘘をつくことも、世間を驚かすことも、彼にはまったく必要のないこと。
極めて健全で、まじめな天体マニアの少年だ。
彼は見たんだ、見たままを証言したんだ。
“半径2000キロメートル”“地球に向かっている”
“あっという間に隠れた、多分、太陽のウラに”
隕石でも、彗星でも、惑星でもない。

id星だ!
そうだ、、そうに違いない!
爽やかだったオレンジの町の印象も、ロッコのたどり着いた重い結論の前には、跡形もなく消えざるを得なかったのでした。