第35章 いつか見た夢

リヴィングルームが賑やかです。全員集合です。
この日最も幸せな時間となりました。ちょうど紹介がおわったところでした。サッチーナが懐かしそうに賢者達と抱き合っています。
お母さんがソロバン先生に、
「ロッコをくれぐれも宜しくお願いします」と、深々と挨拶しています。
博士とお父さんが固い握手したまま、互いに、これから先の数々の越えていかなければならない困難に思いを馳せていました。

きいちゃんがしずこに、
「一人っ子なの? お姉さん欲しいでしょ? あたしが今日からお姉さんになってあげるからね」
と、姉妹の契りをむりやり交わしていました。
ロッコは、、もちろんルナと一緒です。

博士がごひいきの音楽のスイッチを入れた。しゃがれ声の懐かしい歌が流れてきました。「連続」のボタンを押した。今夜は一晩中この人の歌を聴いていたい心境だったのです。

♪I see trees of green、red rosestoo

「皆さん、本日はよくお集まりくださいました。ここに集まられた私たち13人とロッコと、、、ええと何だっけ?」
と、しずこの方に振り向くと、しずこが顔いっぱいの大きな口で
“ル・ナ”
「あっ、そうそうルナ。このメンバーで、今日から10日間特別な日々を過ごすことになります。これはかつて無いプロジェクトで、しかも、極秘であります。といっても、まだ、喋る程のことを誰も把握していないのが現状ですが。しかし皆さん、私は、このメンバーと共に世界を必ず守りきるつもりです。今、何がおこりつつあるか確信を持って言います。
我々の住む地球が、未曾有の事件に巻き込まれようとしているのです。わずか3年後に。
この結論に至ったのは、ここにいるロッコが私を尋ねてきてくれたからです。彼はたくさんの話しをしてくれました。驚くべきことの数々でした。ロッコとの出会いは、私の人生で最大の驚きでありました。ロッコを理解するには、私の体の細胞ひとつひとつを、新しいものに入れ替えなければならない程で、、、、、、、、、、、、」と、始まった演説はいつものように長々となり、、
出会いのときから今日まで、そして今、何故緊急に6人を招集したのか、とくに熱弁となり最後にロッコについてまったく疑念を抱く余地のないこと、ロッコは真剣に地球の将来について憂えていると結んだところで一息ついた。
話し初めて1時間半程たちました。

♪I see them bloom for me and you

テーブルの上のコップの水を、一気に飲み干しました。

♪and I think to myself what a wondful world

「ですから問題は、、危機の特定であります.早急にこの結論をだし、我々は何が出来るか!、、、いや、何も出来ますまい、、、いずれの答えを得たにせよ、ロッコが係わらずにはこの結論に対抗する手段は残念ながらいまの我々には無い、、、何かが動き出したに違いない。
しかしもう止めることは出来ない。3年というタイムリミットで、、地球が壊滅する程のことが起きるというのに、いま3年前、その兆候すら捉えていない。海底火山が一斉に爆発するのか。世界の活断層はおおむね地震性断層と言われています。M10クラスの大地震が起きないとは誰も言えない。その時、各国を信じられないほどの大きな“ツナミ”が村を、町を、都市を襲う事も充分あり得ます。しかしそう言った自然災害より恐ろしい事があります。
人間の排他的なエゴイズムが時に、とんでもない事をしでかしてしまう。核兵器の使用。そう、核保有国の動向は常に監視していなければなりません。しかし、、おそらく、、これらのことに注意をもちつつも、人類の愚行の数々に、我々がまだ何も知りえていない世界からの最後通告と捉えるべきだと思っております」

そう言うと博士は正面の壁にじっと目をやり、100年前そのままのやや黄ばんだ壁を見据えた。
突然の博士の行動が何を意味するのか皆も一斉に壁を凝視した。
博士はゆっくりと壁伝いに上へと顔をあげ、徐々に天井に向かって言った。

「何も知りえていない世界、、?」
誰かが呟いた。

「そう、そのほとんどを暗黒に被われた人類未踏の世界、、宇宙からのメッセージに違いない!」
と、四隅に草木のレリーフがある以外さしたる造作のない天井に向かって叫んだ。
博士を凝視していた12人も遅れまいと揃って天井に目を向けた。

“ああああぁ??!!夜空が、、月が、星が、輝いている!”

壁から上が360度きれいに切り取られたように、無限に広がる大パノラマだ。

♪I see trees of green、red roses too

「いったいどうしたっていうんだ!こ、これは、、、」
ウンベベ氏が叫んだ。
申し合わせたように顔を真上に見上げたままこの突然のイリュージョンに誰もが呆然として目を見張った。
まるでこの瞬間を待ちかねたように、銀河から選ばれた無数の星が、いたるところに散りばめられ、挑発的なほど艶然と、地上の選ばれし者達に光り輝いてみせていた。

もうだれもが、驚きや不安をこえて、目の前で繰り広げられる“スターダストレヴュ−”にくぎづけになっていった。
少年の時の、、少女の時の、あのいつか見た夢が、忘れることの出来なかった夢が、彼らの中で徐々によみがえってきて、それぞれの心の中を、勢い良く駆け回り始めた。
“あぁ〜あ〜ぁ”
深いため息が重なりあった。
15個のシルエットは動きを止めた影絵のように微動だにせずただ魅入っていた。

「われわれは、、、何のために、、、、どこに、、」博士が呟いた。
ロッコは耳をそばだてたが聞こえなかった。

すっかり浄化された空気の中、ひんやりと夜のしずくが集まって、深い闇の奥から崩れ落ちるように分散し、地上へと数えきれないほど放たれた。
そのとき白銀に光る月の表面を背景に、斜めに切り裂くように通り抜けて行った星があった。北北西より東に向かって、恐らく相当なスピードであっただろう。

「今のは、、、?」
「え!?」
「何か、月の表面を通過したようだったけれど、、」
「全然気がつかなかったけれど、、」
「ほうき星じゃないの?
「彗星かぁ、、、!」

そのとき、
「違う!、、彗星じゃない!、、、あの軌道はいったい何?、、」
サッチーナがうめく様に言った。
過去に思いを寄せていた全員がふと我にかえりサッチーナを見た。
博士がサッチーナに聞いた。
「なんだい、いまのは、、」

サッチーナは自分が出した答えに信じられない思いで顔を横に振る。
ロッコは右手の肉球がじんわり汗ばんで来るのが分かりました。
もしかして! 記憶の回路が鋭く動き出す。

「あ! 星の電気が消えていく、、、!」
しずこが夜空を指差し、素っ頓狂な声をあげた。
真っ先に反応したのは、きいちゃんだった。
「星の電気!?、、しずこ、星に電気なんか無いのよ、、いやねぇ」
「でも、ほら、どんどん消えていくよ!」
見ると、隙間無く燦々と輝いていた星群たちが、ひとつまたひとつと、大詰めを迎えて役割を終えたかの様に身を隠していく。それがまるでひとつひとつ電気を消してる様に、しずこには見えたのでしょう。
博士はサッチーナの動揺が総てを語っていると悟り、
「やはり、、、、これは大変な相手だ、、、」
鼓動が弾んできた。あたりは真っ暗になり互いの顔さへ判別がつかなくなってきた。博士はゆっくりと床に腰を下ろすと、いったん正座し、丹田に手を置き、低くうなるような長い息づかいをフューハ、フューハと繰り返し呼吸を整えていた。
やがてゆっくりと大きな息を吐くと、足を崩し東に向かって座禅を組んだ。無念無想の境地をもとめて、、、、、、、、
「あぁ!またお月様が」
しずこが叫んだ。
見上げると、いつもと様子の違う月がゆっくりとこちらに向かってくる。シンプルで美しい見慣れた趣とはあきらかに違う、、、、。乳白色のまったりした明かりを落としながら博士の真上でとまった。地上までやっと届いた濃くたっぷりとした光が博士とそのまわりを照らし出した。

“おおぉぉ?!”

博士と向かい合って小柄な老人が浮かび上がった。
いつの間に!? だれ?

博士が口を開いた。
「事態は一刻の猶予も許さぬ状況となって、、」
「何も見えんから何もないと思うは人間の浅はかさじゃ。いつものことじゃ」
「残り一年となって未だに我々はこたえを得てません」
「終わりじゃと思うなら終る。心持ちひとつじゃ」
「実体のない話しでもすべきかと、、、それならひとはそれぞれ準備ができます。実体をとらえるまで待たねばとなると、それは突然迎えることとなります」
「もう既にある。ホレ、と老人は天空を指さした」
「やはりわたくしとしては、もうこれ以上はおさえておくことは出来ません。科学者生命をかけても起こるべきことは起こる。と、世界に発表すべきだと」

“、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、”

「0.5キャラット、ていうところかな、その右が、、う〜ん、そうねぇ1から2キャラットあるかしらねぇぇ」
夜空の輝く星をダイヤモンドに例えてしずこに聞かせていたきいちゃん。もう真っ暗になり、オトナの話しは興味がないし、星は隠れてしまうし、所在なげに佇むきいちゃんとしずこ。しずこがきいちゃんに聞きました。
「きいちゃん、チキュウのキキってなあに?」
「地球の危機? そうねぇ、、それに関してはソロバン先生に聞きなさいよ。しずこでも分かる様に教えてくれるわよ」
「きいちゃん分からないんでしょ」
「え!なにいってるの!わかっているわよ、、、! でもね、わたしが話しだすと専門的になってしまうから、、。しずこじゃまだわからないと思うから、だからソロバン先生に、、、ネ」