第34章 再びスタジオへ

「いやぁ、あの時の彼らの驚き様は、普段の活躍をご存知の皆さんにはとても信じられない狼狽ぶりでしたなぁ、あ、あ、は、はひふふ、ふ、、、、、」
笑った博士の様な余裕はスタジオにも世間にもどこにもなかった。確かに、博士にとって、信頼のおける友人達、あるいは“刎頸の友”達であろうが、彼ら6人は、それぞれの国々のみならず、国境を越えて、尊敬と信頼をあつめているとても大きな存在だった。
国際紛争には積極的に行動し、政治家が、私利私欲のため、悪いことをした時も、声の届かない自分達に代わって、果敢に批判をし、けっして見過ごさない。平和を希求することを、第一に考える人たちである。
これはとても勇気のいることだということを、皆よく知っている。そしてその頂点にチャンスウインスキー博士がいることも。

たしかにこの時だった。、
この瞬間が人々の心に、初めてロッコという存在からネコという、おおよそ人々が共通にもつイメージが消え始めたのは、、、

6人の賢者達と、互して語られるロッコの存在に、畏敬の念さえ感じ始めていたのでした。
「皆さん、この驚異的な頭脳の持ち主も、人間に恒久的平和を求めているのも、地球が、宇宙での役割を果たすことを願うのも、皆、ロッコです。私も、6人の、皆さんよくご存知の現代の賢者達も、今はロッコの為に、自らの時間を削って支えようとしています。
我々には、解決せねばならない問題がたくさんあります、、しかし人間の持つエゴイズムはなかなかそれを許しません。そして人の歴史は変わること無く愚かなことを繰り返すのです。人間以上の、知的レヴェルを持って、我々の前に現れたロッコはきっと、人類が、必要としているからではないでしょうか。、、、、、、、さぁ、ロッコ、最後だよ」

はい、
ロッコは最後のスピーチに入った。

まず、こんなに長くお付き合い頂いてありがとうございました。
博士の支えがあったので、なんとかここまでこれました。
面白かったこと、ためになったことも、あったと思いますが、それ以上に、つまらなかったことが、多かったのではないかと、心配してます。
でも、今日のお話は、映画やテレビのドラマではなく、本当のことを、お話ししました。
ですから、もし、博士やボクの話しで驚いたり、心配したりという事があったら、それは、もうすでにこの地球で、起こってると考えてください。
それとボクのこと。
きっととても不思議なんでしょうね、ボクもどう説明していいか皆さんが納得出来る説明は難しいと思います。
それより博士がおっしゃったように、ボクがこういう能力を持ったり、さらにもっと高いレヴェルを目指すことは、きっとこの地球のためになるんだと信じています。
だから、、その、、、学校に行かせてください。
もっと勉強して、きっと皆さんのお役に立ちたいと願っているからです。
学校に行きたいんです! 小学校から、、、。

このときスタジオを埋め尽くしていたギャラリー達の思いはとうに沸点を超えて発火寸前だった。
その後ロッコは何を話したかは覚えていない。極度に緊張した状態であったことは確かだ。博士が最後にさらに一言いってくれたことも記憶に無い。ただ、このスタジオの“空気”がすっかり変わってきた事はロッコにも感じられていた。
それは優しさに溢れた居心地のいいものだった。
もしかして、、、
このスタジオの人々が世界の標準的一面を少しでも担っているとすれば、、、
もしかして、、、
ロッコの興奮も頂点を迎え始めた。
もしかして、、、
急に目の前の何もかもが、橙色に染まりはじめた。
人々の大きく空けた口からたくさんの言葉が放たれている。
それは違った国々の言葉だったけれど、人々の顔はひとつに重なりあって、叫ぶ口元も橙色に変色した息も、違いを見つけることは無かった。
ロッコは不思議な感覚を感じていた。
活きている。
本当の言葉だ。
ロッコはとても大事なことを学んだ様な気がした。

博士が引き継いで、
「あえて私からも、申し上げます。学習の道を与えて、さらなる高度な問題の為に尽くしてもらいたいと願うのですが、皆さん、いかがでしょうか」

少し間があった。.
それはオペラ公演の「ブラボー!」の声と共に沸き上がる高いテンションの拍手とも違ったが深い賛同の意を伝えるに十分な、拍手だった。スタジオはもちろん、世界中の人たちが、画面に向かって熱い自分の気持ちを伝えようと、力一杯、手をたたいた。

博士は立ち上がり、ロッコの目の前に、大きな手を差し出した。
ロッコも立ち上がり、手を握り返し握手をしたまま振り返った。
パシャパシャパシャ!! スタジオのあらゆるライトが一斉に二人を捉えたかのような明るさだ!カメラマンから口々にポーズの依頼が矢継ぎ早にとんでくる。が、二人には聞こえない。スタジオの隅から隅まで拍手の音が響き渡って、何も聞こえない。
お父さんがいる。お母さんもいる。きいちゃんが、涙でぐちゃぐちゃだ。
サッチーナはロッコに向かって“と・て・も・よ・か・っ・たわ!”と、大きく口をあけて伝えた。
ロッコは、両手を体の横にキチンと置き、博士に向かって頭を下げた。
拍手は益々熱をおび、鳴り止むことは無かった。