第31章 Meet Again

「こんばんは、サッチーナ教授、」
「お待ちしていました、ソロバン先生」

二人は笑顔で抱き合って再会を喜びあいました。サッチーナは、家庭教師にソロバン先生が決まった日、とことん互いの“教育論”を交わしました。そこでサッチーナは、つくづく悟ったのです。ソロバン先生の話しは、永年の教員生活を反映して、実に現実的で含蓄のある話しだった。それに対して自分のは少し理想に走り過ぎている気がしていた。
子供を教育するということに関しては、ソロバン先生は揺るぎのない信念を持っている。この人ならロッコを預けて間違いない、と、確信しました。それ以来二人は姉妹のように、仲良くなっていたのです。

互いにきいちゃんとしずこを紹介しようと
「きいちゃん」
「しずこ」
きいちゃんとしずこは同時に「し〜っ」と二人とも口元に、小さなひとさし指をあてて、サッチーナとソロバン先生に笑みをいっぱい浮かべた顔をむけた。
そこは確かに違っていた、、そこだけ新しい時間がはじまったようだ。

ロッコとルナが見つめあったまま動かない。
午後の淡い日差しが、白っぽいオークで敷き詰められた床に溶け込む様に入り込んで、ロッコとルナを“特別なモノ”と浮き出たせていた。
ロッコはこんなに美しい仲間をみたのは初めてでした。
3ヶ月目で今の家の一員になった時から、その利発さと可愛いさが、あっという間に近所でも評判になったロッコ。
1歳の誕生日を迎えた頃、ヴァレンタインデーに隣町のネコたちまでが着飾って押し掛け、もちろんみんなチョコレートを持参で家のまわりに集まって、ニャァニャカァ、ニャァニャカァと大変でした。
中にはブランドモノの高価なチョコや手作りと称する怪しげなチョコもあったけれど、、、。結局ご近所迷惑になるっていうことで、きいちゃんが仕切って「みんなの気持ちはちゃんとロッコに伝えるからね、、」とか言って、解散させ大きな袋一杯のチョコレートをもってニコニコと戻ってきたなんていうこともありました。

ロッコは年のわりにはたくさんの仲間を見てきています。そのロッコが初めて知るルナの可憐な美しさ。
ソロバン先生達が二階へ続く階段をあがってきた時、ロッコは自分を捉えて放さない特別なものを、感じていました。でもいつものように“警戒モード”のスイッチは入らずむしろ心地よさへと、どんどん誘われていく。

ルナにとっても、ロッコが抱いた以上の感情の高ぶりを感じていました。
ルナはほとんど生まれてから家をでたことがない。だから、男の子に限らず仲間のネコさえみたことがない。お母さんのソロバン先生からロッコの話しは何度も聞いていた。しずこと共にロッコのイメージは大きくふくらんでいた。だから今日はとても楽しみに会いにきたのでした。
でも、実際のロッコを見たら、とてもそんな余裕のないことを知らされました。息苦しいような、呼吸が逆さまになって今、吸うときなのか吐くときなのかさえ、わからなくなって、
「ルナです。はじめまして、」と、何度も言おうとしても声が出ない。
のどがぎゅっと絞められたように緊張がからだじゅうにとりつき、膝も少し震えだす有様でした。

たまらずルナが小さくないた。
“ニュヤアン”
ロッコも答えた。
“ニャニャヤア〜ン”

ロッコとルナは、未だ一度も覚えのないことが、突然、身に起こったはずなのに、少しの不安や混乱といった警戒モードではなかった。互いの動脈を入れ替えたように、相手の気持ちが素直に体中をかけめぐっていく。二つの小さな相よる魂は、もう既にほかには何も見えていない。
サッチーナとソロバンは顔を見合わせて微笑んだ。
やがて、、書斎は世代をこえた“サロン”のように賑やかになった。
サッチーナとソロバン、きいちゃんとしずこ、そしてロッコとルナ、それぞれが、それぞれの夢を熱くかたりあっていた。

そのとき、いかにも時代にそぐわない、旧式のブザーの音が雰囲気を断ち切るように流れた。