第29章 春の予感

「ロッコ?」
階段の途中から、やや甲高いソロバン先生の声がロッコに向けられた。

あ! ソロバン先生だ。
すかさずサッチーナに報告した。

ソロバン先生がいらっしゃいました。一緒にいるのは、人間の子供とネコの子、どちらも女の子です。
「そう!」
サッチーナは笑顔で立ち上がった。
きいちゃんは「女の子だけ?」などと何を言いたいのかチョコレートキャンディーをほおばりながら、もごもごとした口のまま立ち上がりました。
ロッコは、ソロバン先生と一緒にいるその小さな同じ仲間の存在を早くから捉えていました。でも、頭の中においたはずのこの“情報”は、いつものようにじっとしていず、あっという間にロッコの全身をくまなくはじきわたり、細胞の隅々にまで染み込んできて不思議な気持ちを沸き立たせてくるのです。

ロッコは初めてのことに戸惑い狼狽え、慌てて“経験”という検索をなんどもクリックしましたが、真っ白のまま答えが出ません。
かつて、なんどもなんども、当たり前のようにこの仲間の匂いを嗅ぎ分けて、なれていたはずなのに何故だかきょうは引きずるように、その匂いが新鮮な勢いでむかってきます。
もうそこまできている。

ドキドキ、ドキドキ、ロッコの小さな心臓は、体全部をまとめたように支配しはじめ、鼓動はますます高まってきました。
ロッコが生まれて初めて経験する制御できない心の動揺、、

春の訪れ、、、かもしれません。