第26章 きいちゃんと見た夢 その2

きいちゃん、聞いていい?
「あら、ロッコなに!私に聞きたいことあるの? なんでもきいてよ、」
あのね、どうしても解らないことがあるんだ。
「なに? なに? なに?」
その前に、きいちゃん運転できる?
「運転? 車の?」
うん
「う〜ん、、運転ね、免許持ってないからねぇ、運転はちょっと、、」
免許持ってないの、きいちゃん!
「やってやれなくないわよ! 少し走らすぐらいなら!」
そういうことじゃなくて、、きいちゃんは免許持ってないなら運転しちゃいけないんだ。
「免許持ってない子なんかいくらでもいるわよ! だいたい私みたいな女の子には、男の子が車で迎えに来るのよ! いつも、。
どこにいくのも。だから免許取る必要ないのよ」
そんな人、いたっけ!
「これからよ! これから、ネ、これからが大事なの」
じゃぁ、ともかく
なぜ免許が必要なの?
「なぜ?」
うん、飛行機のパイロットも、お医者さんもみんな難しい試験を通らなきゃなれないんでしょ。
「そりゃあそうよ、だから皆高収入なのよ、医者もいいけど。わたしは断然パイロット! それも国際線の。いいわねぇかっこいいし、、」
でもなぜ?
「なぁに、さっきからなぜ、なぜって!」
なぜ難しい試験があったり免許が必要なの?
「なんだそんなこと! ロッコも随分いろんなこと知ってきたのにまだ子供ね、、それは早い話が危ないからよ! あんなに車が通りを走ってるじゃない、みんな免許持ってなければ危なくてしょうがない。
パイロットも同じよ、飛行機落ちるとたくさん人が死ぬのよ、そりゃもう大変なんだから、、お医者さんだって、ロッコどこか具合の悪い時、素人の人のところいく? ちゃんとした病院にいくでしょう? みんな生死に関わるような仕事をするには、ちゃんと昔からきびしい試験があり、狭き門なのよ。そういう試験を“国家試験”て言うのよ。ちゃんと勉強しないとそうは受からない難しい試験よ。誰でも簡単になれたら危ないじゃない」
じゃぁ、どうして政治家になるのにそういう難しい国家試験がないの?
「え!?、、政治家?せい、、じ、か、、あれ! なかったっけ!?」
ないよ!
「あら、?、、いやぁ、ロッコ! 違うわよ、政治家になるには選挙があるじゃない!」
選挙は国家試験とはちがうよ。
「でも大変よぉ、」
僕はとても不思議でならない。国を動かす人たちでしょう、
最高権力者になるかもしれない人たちでしょう。
きいちゃんが言うように生死に関わる仕事というなら、政治の仕事がいちばん大きいと思うよ。
本当に危ないのは国の進路を決めてしまう人たちなのに、そこに何の基準もないなんて、、、
世界一大きな客船の船長よりもっともっとたくさんの人の命を預かっているのに、選挙で勝てばもう政治家!? で、権力者!? それでいいの?
「選挙で勝つのも難しいんじゃない?」
選挙って人気投票でしょ? お金と演技力、あと有名人だとか、、
「それだけっては言い切れないないけど、、そういえば芸能人多いわねぇ、あとテレビによく出る人とか、、でもロッコ、なんでそんなに政治家にこだわるの?」
だって政治家が戦争を始めるんじゃない。きいちゃん、そうでしょ!
そしてその国の人たちは反対はあってもその敷かれた道を一緒に歩まなければならないじゃない。
だから国のリーダーがちゃんとした思想や知性の持ち主じゃないとみんなが不幸になるかもしれない。選挙は必要だと思うョ。その前に、選挙に出られる資格というか、。
「超難しい問題だしちやうとか」
ううン、そうじゃなくてたったひとつだけ、、少なくとも平和主義者であるということ。政治家を目指す人は、そのことを証明しなければ選挙に出れない。
「証明?」
うん、
「どうやって!?、嘘つく人もでてくるわよ」
もう法律になってるんだ。だから、ごまかしたり嘘ついたり、発覚した時点で失格。重い罪になるの。
“誓いの5か条”といって、宗教も、主義、主張も入り込まない、全世界共通の概念。これを、学び、理解し、国民に誓うんだ。
これが最低の条件。
どんな事があっても戦争をしない
どんな事があっても戦争に参加しない
どんな事があっても戦争に協力しない
どんな事があっても軍備を持たない
どんな事があっても戦争を起した国、参加した国とは一定の非友好期間、あらゆる分野でもうけて厳しく批判する。
「そ、それ、ロッコが考えたの!?」
ンニャ!むかしからいわれてること。
「むかしって、どのくらいむかし?」
ウ〜ん、いつ頃からかなぁ、、政治家の資質にふれたのは、、ずう〜とむかし、、たとえばギリシャ時代とか。
「ギリシャ時代!? そんな時のこと知ってるの! ロッコ、学校も行ってないのによく知ってるわねぇ」
本で読んだもん
「本? どんな本!?」
プラトンの“ソクラテスの弁明”とか。きいちゃん読んだ?
「知らない、聞いたこともないプランクトンが何の弁解したっていうの? 小さいのよプランクトンって。小学校の時、顕微鏡で見たわよ。でもあんなものが何弁解するの? そんな本読んでおもしろい?」
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、!?
「そんな生物の実験みたいな本読んでも、何の役にも立たないってことがオトナになるとわかるのよ」
じゃぁ、きいちゃん、どんな本読んだらいいの?
「もちろん“ラブ・ストーリー”よ、テーマは“愛”」
ボク“愛”についてはいっぱい習ってきたからもういいんだよ。
「そこが違う! “愛”は習うものじゃないのよ、実践するものなの。相手を愛し、相手から愛され、もう2人から出た感情の混じりあった空間は、だれにも邪魔されたくない、美しい、純粋な時間なの。
“あぁあ時よ、いつまでも止まっていてほしい“っていう感じよ。わからないだろうなロッコには、、難しい本ばっかり読んでるから。そのうち頭でっかちになって2本足だとこけるわよ」
少しわかるよ、、たとえばどんな本?
「とっておきの本を紹介するね、私の大好きな一冊“風と共に去りぬ”」
、、、、、、へぇぇ!? それよい本?
「良い悪いじゃなくてとっても面白い本よ、ロッコはもっとこういう本を読まないと頭のいいネコになるかもしれないけど面白いネコにはなれないわよ」
“面白い”って必要なこと?
「ロッコ、いい?本当に人間のことを知りたかったら“面白い”って大事なことよ、げらげら笑えることだけじゃなくて、時に合わせて気の利いたジョーク、場に合わせたエスプリ、状況をつかんだユーモアなど品よく自在に操る人なんか面白い人の典型、とっても魅力的なことなの。
頭のいい人は世の中に沢山いるけど、賢い人ってそうはいないでしょ。面白い人、つまり、何事も面白く表現ができる人って絶対賢くないとできないのよ。求められるのは知性だけじゃないの。センスもね。会話のつぼを心得た。これはネコにはないわよねぇぇ」
ネコだけじゃないよ、、! 多分どの動物にもないから、人間だけだよ、。あぁっ!、、

少し憮然としながらも、“人間だけだよ”と言ってロッコは、ハっとしました。3年しかないという現実と早く人間を、人間社会を理解しその目指すところに追いつき追い越さなければならないと自分の役割に懸命になっていった。いつの間にか、人間が目指している道を必死に走っていた自分に、気がついたのでした。そうじゃないんだ! こっちの世界ばっかりだから、だめになったんだ、、

ロッコは目を閉じました。思いを、もうだいぶ以前のことだったような“あの時に”にあわせてクリックしました。
パっといつもならはっきり得意げにクレジットされるはずの項目がどうもよくわかりません。いくつもの言葉が現れては消えその消える寸前に次の言葉が重なり合ってしまうのです。形のあるものしか、、理想、、心の内側、、人間自身では無理、、慮る、、情操的感性、、愛、、そうこれだ!
しかし文字に落ち着きはないままだ。どうもロッコは入力の仕方と保存がうまくいってなかったようです。ロッコにとってまだよくわからない世界、はっきり証明できない世界、決まった定理法則がない世界が一番苦手でした。しかしこれこそロッコが皆に伝えるべきことだったということは十分わかっていたのですが。

きいちゃんの言葉にすっかり我にかえったロッコでしたが、急に何んだか今まで夢中になってしてきたことに不安が募ってきました。ロッコにははっきり答えの出る理数系の学問のほうが自分の成長が手に取るように分かるので夢中になってしまいましたが、つまり人間も皆同じなんだ。答えの出ることには頑張れるけど曖昧模糊としたこと、つかみ所のないことはやっぱり後回しにしてしまったんだ。ロッコは人間社会の大きな渦にいつの間にか巻き込まれそうになっていたことに気づいた。

お父さんたちとしばらく離れて博士の家に住むことになった前日の夜のことだった。お父さんから“ロッコの使命はとても大きい、くれぐれも自分を見失うことのないよう”といわれていたことを思い出していた。