第23章 きいちゃんと見た夢 その1

きいちゃんの部屋にいる。
きいちゃんの部屋はお父さんの家で一番カラフルだ。
赤やグリーン、黄色が大胆に使われ、きいちゃんらしくまとめられている。
ロッコはきいちゃんの部屋に入ると、いつも元気な気持ちになれます。

きいちゃん、ねぇ、きいちゃんてば、、
「なにぃ、ロッコ?」
やっぱり『国』って必要なの?
「くに? くにって、国旗のある国のこと?」
そう、
「そりゃそうよ! 国がなければ困っちゃうこと一杯あるわよ」
たとえば?
「例えば?、、そうねぇ、もし外国に行ったとするでしょ、その時“あなた、なにじん”って聞かれたら困るじゃない! ね」
きいちゃん、なんて答えるの?
「にんじん、、フ、ファ、ヒッヒヒ、、、」
もう! すぐふざけるんだから。まじめな話をしてるんだから!
「ゴメン、ゴメン、、でも、ロッコだったらなんていうの?」
ボクが、、人間だったら、、たぶん地球人!
「だめよ、それじゃぁ! みんなおんなじじゃない、地球にいるんだもの」
おんなじじゃダメ!?
「ダメよ! だめにきまってるじゃない、、、オリンピックどうするの?」
オリンピック?
「そうよ、“各国の選手団の入場です”って言えなくなるじゃん。みんな地球人じゃ」
それって、そんなに大事なこと?
「もちろん。ワールドカップもミスユニバースもあるわよ」
、、、、、、、、、、、、、、、!?
じゃぁ、話を変えて、オリンピックが出たから是非聞いて欲しいんだけど、ブレンリンピックってどう?
「なに、それ?」
オリンピックって跳んだりはねたりするんでしょ? 誰が一番か決めるのに
「別に、跳んだりはねたりだけじゃないわよ、、ネコのけんかじゃないんだから」
でも、色々なものの中にオリンピックが出てくると、いつも走っていたり、ジャンプしたり、、、
「あ、そうか!ロッコはまだオリンピック知らないんだ! 本物は!! ウふ、、シベリアオリンピックの次の年よね、、むふ、、ロッコが生まれたの、くくくくうぅ、、、という事は今2歳だから、あと2年もある!」
なにが?
「な、何がって、、!」
ズル、、ズル、、、
きいちゃんはあまりの急な嬉しさに、声は裏返り、鼻と涙が一緒にでてしまいました。

どうしたのきいちゃん?

もちろん、きいちゃんはだれよりもロッコが大好きです。ロッコの世話も一番自分が見てきたと自負しています。これまで寝食ともにしてきた仲ですから、、、だからロッコがみんなの話題になり、その成長ぶりが称賛されると自分の事の様に嬉しかったのです。でもここ最近急にロッコは大人びてしまい、昔の様に自分と遊ばなくなってしまいました。いつも書斎にこもったままむずかしい本ばかり読んでいます、。
きいちゃんはロッコがだんだん手の届かないところにいってしまうようで、内心はもうこれ以上有名にならなくとも、、、と、思っていたところです。

オリンピックが肉体の競演だとすると、ブレンリンピックこれは頭の競演、
Brain+Olympic Brainlympic、てね、、ふふふ
というわけ
「大きさ比べるの?」
大きさ? なんの!?
「頭の!」
違うよ、考えて、考えて最高の答えを出す勝負さ。
「何を考えるの?」
そう、それが問題なんだ。この問題は地球上に起きてるあらゆる問題から出されるの。
小さな部族の問題から民族紛争、大きな戦争まで。
生物の生態系や新しいエネルギー、公害、貧富の格差、独裁政治、差別、冷温化対策等などいろいろな国々が抱えていて、解決策に憂慮している問題などが予選からどんどん出てきて、その解決案の良さを競い合うんだ。
各国10人一組のチームで参加して2カ国で戦っていくトーナメント方式。
3時間をリミットにできるだけ早く最高の答えを出したチームが勝ち進んでいく。
少なくとも予選は80点以上じゃないとクリアできない。
審査員団は世界各国から100人程度の各分野の学者や専門家たちによって構成され、審査に当たってはその問題に利害関係の少ない国の者があたる。
特設会場はメタリカルでシンプルな近未来的なデザインで無駄なものは一切ない。
ただ最新のコンピュータ?2機が組み込まれた互いのエリアが20Mの距離をおいてあい対峙し、センターにはあの宇宙から見るお馴染みの青い地球が大きく美しく、静かに自転している。
もちろん、観客は彼らが問題に対して2機のコンピュータを果敢に駆使するその様子を、観客席に向けられた巨大な画面で、そのアプローチの仕方も検索の過程もわかるんだ。まさに知の空間さぁ。
ね! どう、わくわくしない!
「する、する、で、女子は?」
男女差なし、年齢制限なし、この10人をどういう構成にするか、とても重要になると思う。
ただし、かつてか現在か職業として政治に関わったもの、あるいは教師、教授、学者などの学術研究者はでれない!だめ!
「うんうん、それいい、あたし学術研究してないし、、金メダルは、、あるわよねぇ、私あれが好きなのよ、授与式!」
当然、最後に2チーム残って決勝戦となるわけ。この2チームはすごいよ!
「すごい秀才の集まり? 国立大出ばっかり?、、もう全員既婚者かなぁ、」
きっと、そうとは限らない。
こういう問題はきっと秀才を集めたからって出来る事じゃないと思うんだ。
とても高い発想力と、知性、仲間の意見を見定めて瞬時に支持する許容性と柔軟性、常日頃から人間を深く愛し可能性を信じ、鋭い洞察力を身につけてる人達、社会的に恵まれていない人達とも成功した人達とも同じ態度で接する感覚など、要求される能力はとても大きい。
それにどんどん変わる注文に応える超絶技術のパソコンマニアも必要かもしれない。
これはきっと相当若い人になるかもしれない。渾然としたチームだ。
各国で代表となってきたんだもの、いずれにしろ優れた人達の集まりなのは間違いないけど、。

きいちゃんはロッコの目がキラキラと輝いて行くのを感無量な面持ちで見入っていた。

それでねぇ、きいちゃん、決勝戦の問題はいつも一定の条件があるんだ。
「どんなの?」
まず、出題される問題が現在、国際問題化しつつあり、人の命が大きく関わる可能性があるコトが条件となる。
関わっている国の政治的打開策もゆきずまっている、など。
だから決勝戦の問題に関しては、当然想定済みのはずだ。
ある程度につめている場合が多く決勝は5時間のリミットになるんだけれど、とても実質的で発想豊かな、政治家ではとても考えつかなかったであろうユニークな提案が多くなるんだ。
「それで、それで、、優勝するとどうなるの!」
このブレンリンピックは3年に一度開催されるの。
そしてこれは全ての国が参加することを目標としなければならないんだ。
国連も、大きく開催の一部を担っている。だからとても権威があり優勝したチームの提案は、何より参加した国々は尊重しなくてはならず、国連は第一次議案として検討する事を約束されている。
解決の為のしかるべき予算も国連が拠出することになる。

「3年に一度って早くない?」
きいちゃんがそう質問したのは覚えている。

3年に一度?
その後は記憶が遠ざかって行く、、目の前からきいちゃんもカラフルな部屋もなかったかのように消えていく、、
でも3年という言葉が耳元でなかなか去らずにひびいている。
どうしたんだろう、きいちゃんと話をしてたのに、、急に不安がつのりあたりを見渡した。
薄暗いボックスの中を覗いたみたいに密閉された閉塞感があり息ぐるしい。
黒く重そうな機材が、誰かにいたずらされたあとみたいに、あっち向いたりこっち向いたり不揃いに並んでいる。
あ!? スタジオだ!
ボク、何してんだろうこんなところで!
ロッコはふわふわと博士と自分の席の真上を漂っているかんじです。
見下ろすと博士も自分も頭のてっぺんしかみえない。
時折、博士の体が左右に大きく揺れたり、自分の抜け殻も小刻みに動いているところを見ると何か話をしているのが分かる。

「3年あると人間はいろいろなことを起こしますからね。問題が風化するまえに、あるいは、とても手がつけられない状況になる前にいわゆる“政治的”解決ではない、人間の持っている優れた英知が発揮される瞬間を普通の人達、子供から大人までが目の当たりにして欲しい。というのがロッコの考えるこの大会の趣旨ですから、3年に一度となったんでしょう。私も、とてもいいアイデアだと思います」
と、博士はロッコを見て微笑みました。

ロッコは長々とひとりで“ブレンリンピック”構想を一生懸命話し続けたのでスタジオに詰め掛けた記者団から出た
「3年に一度って早くないですか」の問いに、博士が替わって答えてくれたので、少し緊張もほぐれ、汗もふいたし、息継ぎも出来たし、ほっとしたところでした。
博士の笑顔に促され、ロッコは小さな咳払いして目の前のミネラルウォーターの瓶を、両手でヒョイと持ち上げ、あらかじめ入れてある長めのストローから、ズズッと喉をうるおして顔をあげました。
パシャパシャパシャとフラッシュのあらしです。おもむろに、ロッコは口を開きました

僕たちほかの生き物からすると、やっぱり人間てすごいと思います。
特に“言葉”をこれだけ成熟した機能として育んできたことは、人間が宝物を発見し手にしたようなものだから。
僕もいまこんなに騒がれているのはまさに“言葉”をもったからだと思います。