第17章 その後のチャンスウインスキー邸

「あなた、あなた」
サッチーナが心配そうに博士に声をかけた。

先程からロッキングチェアで思索にふけっていた博士がすっかり夢の中を彷徨っている。
急に、とぎれとぎれの言葉を“ロッコ”だとか、、、、“サッチーナ”の名前がでたり、
時に語気強く“認識は解体した!、、、認識は、、認識は、、、、”
うなされている。
こんなにはっきりと寝言を言う博士は初めてだった。

サッチーナは、そっとしておこうと思いましたが、今、離れると二度と逢えない気がしてきておもわず博士の横に寄り添うように、しなだれかかりました。
「あぁ、、サッチーナ、、」
「起してしまった!? ごめんなさい、」
「あ、いや、、寝てるとは思ってなかったよ、、、」
「あなた、夢を見ていたでしょう、、どんな夢?」
「そうだ、そうなんだ、、夢だったのか、、ふむぅ、、どんな夢?、、、それは、つまり、よく覚えているんだよ、今見ていたからね。だけど最初は、、何から始まったんだっけ、、そうそう、、脳がロッコを、、、、!? いやロッコが脳を、見てくれと言ってきたんだ、、」
「ロッコが脳を!?」
「そうなんだ!彼が確かこう言ってきたんだ、、“博士、ボクの脳をしらべてください。”」

博士、ボクの脳をしらべてください。
「え、!? 脳を調べるって、、あ、頭でも痛いのかね?」
「あなた、何をおっしゃってるんですか。ロッコはネコなんですよ、もともと。それがこんなになってしまった、、、? あ、、!? ゴメンナサイ。、ちょっと私も変だわ、、つまりロッコの脳が、急激に発達したわけよね、もちろん、科学者が簡単にこんな話をしてはいけないことは承知の上ですけれど、でも私たちは実際に目の当たりにしてるわけですから。私たちの認識を超えたことが今起こっていて、、」
その時、博士は、持って行き場のなかった思考の混乱を、この時ばかりと、サッチーナの言葉にぶつけてしまったのでした。
「認識を超えた!? どういう意味かね、サッチーナ。数理哲学における認識、つまり科学的認識はもう解体されつつあるんだ、現代においては、、君は集合的存在の一部として認識を捉えようていう立場かね、先験哲学の、、」
サッチーナもこの驚愕すべき事実に、もちろん明確な答えを持っているわけではない。でも事実を早く受け止め,次に何が起こるのか冷静にみつめようとしていた。だから、負けず嫌いなサッチーナは、つい博士の言葉に口を挟んだ。
「、、先駆哲学のカントはウオルフの特殊存在を考察するコンテンツの総論として存在論を規定し、理性的認識による本体の学びと考えたことを否定し、、」
と、いったところでなんと、ロッコが急に割り込んで、
否定し、、、先験哲学を主張した。後に、このカント的立場に対してサルトルやハイデッカーらによる独自の存在論が復活しそれを基に認識論を説いた。
と、早口で言った。

これにはさすがのサッチーナもへなへなと脱力してソファにへたりこんでしまい、博士は驚倒しきった顔を、ロッコに向けるのが精一杯の様子だった。
そして彼は思いつめたように再びこういいました。
博士ボクの脳を調べてください。