第7章 宇宙の旅

そういうと天空に輝く星雲に向かって、いっきに舞い上がっていった。
ロッコはどんどん地上が小さくなっていくのを、びっくりした目で見ています。
自分の家があっという間に小さくなったかと思ったら、お父さんの書斎でよく見た地球儀で見る国の形があらわれて、それがまたどんどん縮小されて、やがてその全貌がゆっくりと現れた。地球儀で知ってはいたけれど、目の前にこんなに大きく現れるなんて、

すっごい! 地球だ!
スカイブルーの球体に白い雲が所々に散らされて、ロッコもよく見るマーブル模様の地球だ。
テレビで見たのと同じだ。外国が全部ここにひとつになっているんだ。

巨大な球体が何の支えも無くぽっかり浮いているのが、ロッコには不思議な感じがした。
今、たった今まで居たはずの所を外から眺めているなんて、、お父さんもお母さんも、きいちゃんも、みんなあそこにいるんだ、、。

「ロッコ、地球がみえてるのね」
はい!
「どんなかんじ?」
でっかい!、、、すごくでっかい!
「そう、、それでは太陽系をでてみましょう。さぁ、手を、、」
気がつくといつのまにか手を離していました。慌ててその人の腕にしがみつきました。その人は再びロッコの手を握り、地球からさらに遠く太陽系の外へと向かいました。その人は左手を高く掲げ人差し指でその方向を指し、先程までの顔とはまったく違う厳しい顔つきで次から次と現れる星群の束にも目もくれず真っ直ぐに前を見据え、すごいスピードで突き進んでいきました。
見上げるように大きな球体だった地球が、 グングングンとまとめて引き算されていくように半分、また半分、そのまた半分と、簡単に小さくなっていく。

ロッコはとても心細く複雑な思いです。
まさか自分の目の中でこんなに地球が、どんどん小さくなっていくなんて、、

ア、あぁ消えちゃう、、
あのう、地球が、きえちゃうんですけど!
と、叫ぼうと見上げたがひとりごとのようになってしまった。

えぇ?!
もしかして!? もう戻れない!? みんなとこれでお別れなの!

地球は他の星とは違う。絶対、特別な星なんだ、と、どこかでそう思いたいロッコは、いまや視界から消えつつある事実をどう理解するべきか、、とても混乱していました。

だってお父さんが外国に行く時12時間位かかっていってたし、きいちゃんがスーパーのくじで1等をとって行った何とか島4日間の旅でさえ6時間はかかったのに、、

ロッコは宇宙にきてまだ10分位、、それなのにまもなく地球が消える。戸惑うばかりです。
そんなロッコの思いを無視するかのように、地球はどんどん離れていく。すごいスピードでロッコの周りを矢のようにたくさんの星がすれ違っていく。地球を見失うまいと、ロッコは必死で見詰めていましたがやがてひとつの点に過ぎなくなってしまった。
その人は大きな星とすれ違うたびに火星、木星、土星、、、とロッコに告げた。
その点もあっという間に吸い込まれるように消えて、太陽系全体が地球に変わって点になっていった。点になった太陽系からさらに離れると巨大な雲が立ちはだかるように現れた。

「オールトの雲です。彗星の宝庫ですよ」
シャリシャリした小さな恒星がたくさんあつまって太陽系を包み込んでいる。

「さ、もっと遠くに、、雲をでれば恒星の世界です」
その人は一気にジャンプしました。

「ほらぁ! ロッコきれいでしょう。みんな愛を上手に育んだ星ばかりです。運命を享受しその役割を全うした自信に満ち、光に溢れた星が集まっています」

ロッコはこんなにまばゆい、気持ちのいい光を浴びるのは初めてです。
そうだ! きいちゃんに見せたいなぁ、、
きいちゃん、すごくよろこぶだろうなぁ。
ロッコは、きいちゃんがいつも口癖のように言っていた言葉を思い出していました。
“あたしは、イルミネーションの無いところには住めないのょ、いいロッコ、ま、つまりイルミネーションの似合う女なのね、、。”

「ロッコ、まだまだよ、今度は12万光年あたりまで行きますからね」
ロッコはもうほとんど何がなんだかわかりません。力も全部抜けてしまっています。
その人に、あっちにこっちにぬいぐるみのように振り回されて、体からすっかり骨が抜けてしまって、されるままです。

オールトの雲も、もう姿も形もありません。
あまりにも速いスピードで、たくさん星の合間をつきすすんでいくので、星と星の輝きが重なり、光のラインになって後方へとどんどん伸びていきます。ロッコはまるで自分がほうき星になったような気分です。そしてその人は静かにロッコの手を離した。

12万光年だ!
渦巻き状に,器用にのばした真綿が,ふんわり浮かんでいるようだ。近づくと白い分厚い雲が何層にも折り重なって、それぞれが無数の星をかかえている

「ロッコ、みえてますか?」
ハ、ハイ、、
「これが銀河です。星の大集団です。ロッコたちが、普段見ている太陽が、ここには3000億個はあります」
3000、億、個!タイヨウが!?
「中央が膨らんでいるでしょう?バルジといいます。厚さが、、たしか、、そう1.6万光年だったと思います」
1.6万、、、光年!?

ロッコがことごとく反応することや、ひとつひとつに実感を得ている様子にその人は、やはり並みのネコではない人間並み以上、賢人クラスか? いや、それ以上かも知れない。と、言葉を交わす度にぐんぐんと成長するロッコを見て自分の信じてきたことに確信をもったのでした。

一方ロッコは必死でみつめていた地球が、あっという間に太陽系にのみこまれ、その太陽系も巨大なオールトの雲の中につつみこまれていった。
宇宙に出てまだわずかな時しかたってないのに地球もそれを包む太陽系も、もう既に形さえのこっていない。地球にとって、かけがえのない太陽が、ここには3000億個もある。それがこの銀河だという。
真っ暗な、ひたすら果てのない、叫んでもわめいても、まとわりつく重い大気に、体の自由は奪われ、あまりにも激しい展開と、聞いたことも無い、大きな数字を前にしてすっかり萎縮してしまった自分が、本当に小さく思えた。

ロッコは考えてしまいました。
今まで大事にしてきたこと、大切だと思ってきたことが、、そんなに意味の無いことのように思えてきて、、
もうすぐ2歳になるロッコは、お父さんの家のことは、もう何でも知っている、きいちゃんよりも。
だってきいちゃんは屋根裏や縁の下のことは、あまり知らないから。だからボクが一番と、得意になっていたけど、、、、。お父さんの家のことは解るけど、、この町のことは、、都市のことは、、この都市のある国のこと、、となりの国のこと、他のたくさんの国のこと、、地球のこと、、そして、、、、、宇宙、、!
なんにも知らない!!!

宇宙という空間。
この想像を超える、深さはいったいなんなんだろう。
上を見ても下を見ても横を見ても、、、どこを見ても深く、黒く、重い、、そして、限りがない、、。

その人はロッコがほとんど虚脱状態にあるのを見て、宇宙の旅はこの辺にしてすぐに『愛』の領域につれていくことにしました。
ここだけは、ロッコに是非見ておいてほしかったからです。それにロッコの具合もたちどころに良くなるはずだから。幼いロッコの想像力は限界に来ています。

その人は前置きなしにいった。
「80億光年に、ジャンプ、、、、到着!
さぁここが『愛』の領域の第一次空間『愛の関門』です。御覧なさい、まわりを、、無数の光の点が互いにひきつけられるように隙間無く輝いて、きれいでしょう」

ロッコも、この小さな点が生命を持った星の集まりで、みな必死に互いに負けずに光を出し続けてる。こんなに遠くから、、、と思うと少し感傷的な気分になってしまいました。

地球はどれだろう?
ここまで来るのに幻惑されたように夢中でついて来たロッコでしたが、体験させられた宇宙の大きさを、自分の中で徐々に修正し始めたので、だいぶ落ち着いた様子です。
この星の集まりの中にたとえ地球が目立つことなく、混じっていたとしてもロッコには分る気がしました。
やっぱり、地球は特別だもん、絶対わかる。
ロッコは、ピッタリと重なりあってピカピカしている一点一点を凝視しはじめました。
地球を見つけるぞ!
でもそれに、水を差すかのように、その人は言いました。
「ロッコ、あの点は星ではありません。先ほど見た銀河です」
え、ぇぇえっ!!
「ここ愛の関門は、たくさんの星が互いにひきつけあって、できる系列や集団、星雲、銀河などすべての成り立ち、形成に介在しています」
でも何も見えないよ!?
ここにきて、だんだん元気になったロッコが、弾んだ声で聞きかえしました。

「見えますよ。近づいてごらんなさい」
その人が指差すほうへとロッコは近づいてみた。何も見えない。
「ロッコ!」 遠くからその人の呼ぶ声がする。
見ると、その人がとても小さくなって手を振っている。
あぁ、?、どうしてあんなに遠くにいっちゃったの!
ロッコは、真っ暗闇に独りぽつんと残されたことに気づき、あわててそこに向った。ロッコのイメージの無重力はいくら走ってもなかなか進まず、海中でネコかきをしてもがいてる状態だからなかなか進まない、。

その人は微笑みながらこういった。
「ロッコ、今あなたのいるところをひとつの点、私のところも点。点から点に移動することを強く意識しなさい。決して、そこから私のところまで軌道を描いてはいけません」
点から点!?
そうかぁ、一呼吸してドキドキが落ち着いたところで、心の中でさけんだ。
(ここの点からあそこの点ヘ!)
ヒョイットっと、
強い磁石に、吸い込まれたようにその人の横に、ぴたっと着地した。
「今いた場所を振り返って御覧なさい、ロッコ」
くるりと振り返ったロッコ。
ウオォオ! ウオッ! ウオオォォォォ~~ル!
嬌声を上げてのけぞってしまった。
で、でか、、でかい!!
あまりにも巨大な壁が宇宙を遮断している。隙間がない。
ひとつぶの星の輝きもない。堅牢なコンクリートの壁がぶ厚く仁王立ちしているようだ。

「ロッコ、こわい?」
うん、、
のどがカラカラでかすれた声でやっと答えました。
いつの間にかその人の後ろにまわり、隠れるようにしがみついていました。

「そう、それではとても大きな要塞のように見えるのね」
うん、うん、そう、、それ!
「この愛の関門は、天から与えられた愛の醸成をなまけた星。愛を育まなかった星が簡単にこのあとにひかえてる『愛』のエリア。第二次空間に入り込むことのない様見守っている役割もあります。多分ロッコは愛を識る以前の幼い存在なので、異物が迷い込んだ時と同じ反応をしてしまったのね。
この関門がどう見えるかはそれぞれの星がどのように役割を担ったかによってその星の前でめまぐるしく変わります」
この要塞のあとにそれがあるの!?
ロッコはもうこりごりという感じでつぶやいた。

「宇宙の真理です。『愛』のエリアです。宇宙の存在と認識、そのバランスを180億年間保ち続けています。全宇宙の愛の源がここです。ここがいまの宇宙の始まり、最終ゴールよ、ロッコ!」
え! ほんとう? じゃぁこれでおわり、、だネ。
「ロッコよく頑張りました。本当に。でもこの領域だけはしっかりみていくのですよ。おそらくこの後1000年を経ても人類は近ずくことすらできないでしょうから」
ウへ~ぇッ! 本当に! でもボク来ちゃったじゃない!、、ネエ !
いまいるんでしょ? そこ、、に。
ロッコはしきりにあたりの匂いを嗅いでいる。

「そうですよロッコ、あなたは貴重な体験をしたのです」
でも、なぜここがそんなに大事なの?
ここに来るのに、たくさん惑星や銀河を通り越してきちゃったのに、ここのほうが、、、だいじ?
「毎日たくさんの星が生まれます。皆それぞれの愛の意味を与えられて、、それぞれが育んでいくのです。でもひとつとして同じ愛はないのです」
え、そうなの、、じゃ、この愛が一番いいからこれをめざしなさいっていうお手本、もくひょうみたいなもの、ないの?
「ありません、それと愛に順位もありません」
おおきさ? おおきい愛、小さい愛、、、?
「いいえ」
わかんないなぁ。
「ロッコはもう十分愛にあふれたネコですよ」
ほんとう!? どれ、どこ、どんなとこ、、、
「これからのあなたの生き方を見ればわかります」
でもなぜそんなに愛って必要なの?
「愛はあなたに自由を与えます」
自由?
「そうですこれはとても大事なことです。ロッコは何が大事?」

ん!?
急に言われたので、いい答えを、、と、、でもいっぱいでてきてしまって、
ひとつだけ?
「いくつでも」
じゃあ、とにかくロッコが大事と思ったのは、きいちゃん、おとうさん、おかあさん、それから、シマとら!
友達だからね、、もちろん親分一家も、食べ物も大事だよね。フルーツジェリー、イチゴのババロア、マグロのすし
それからクマとらの一夜干し、、、
「え?!? ネコの干し物!」
きゃひゃひゃひゅううけけけ、、、
ロッコは可笑しくって、笑いが止まりません。
クマとらがぺったんこになって軒下に逆さに吊るされている様子が出てきて、、もうお腹がいたくなるほど笑い転げてしまいました。
ふアフフア、ア、いつ、あいつ食べても、、まずそう、、ううう
「では、なんですか、、?」

ようやく笑いを抑えたロッコはこういった。
クマとらがどこからか あじをひとつ失敬してくるんだ。
それを直ぐに食べたいのを我慢して、下腹から、こうして親指をツ~と上まではしらすと、パカときれいに開く、そこに出てきたないぞうは食べていい、、少しだけどとってもオイシい。
で、ないぞう食べちゃったら“そこまで!”と、クマとらがきっぱりと言う。
ふだんのクマとらから想像もつかないほどオトコらしい。ないぞうが無くなって身の引き締まったあじにかぶりつきたいの我慢して顔あげていく。
これが大変とっても勇気がいるんだ。ここからがクマとらの独壇場。開いたあじをしたから上にと隙間なく舐めていく。でも決して身は食べない。首までいって、ふう~とため息を吐いて顔を上げるとテロテロに光ったあじの身が現れる。一同“おお?!”と短く歓声を上げる。
“芸やな、、芸の域に達してるヤがな、ホンマに見事なもんじゃ、、。”
親分が、、滅多に口を挟まない、とら吉親分が呟いた。親分は何故か芸事の話しになると決まって方言になる。
クマとらは、かしらのところをかるくかむと、、テカテカになったあじをくわえたまま公園の横の倉庫の屋根にといを巧みに使ってあっという間にスレートの屋根へと登り上がった。直ぐにいつもの決まったところへ置くと、ヨコにごろんとあじの開きのように並んで仰向けに両手両足をだらりと左右に開いた。
“はぁ?”と息をついた。緊張がほどけた瞬間だ。このまま一昼夜、不測の事態の起きぬよう付き添う。
こうやって大事につくられたあじをようやく翌日の昼にみんなで食べる。
ロッコは初めて食べた時あまりのおいしさにすっかりとりこになり、それからクマとらの一夜干しは好物ベスト5に入った。

「ここは宇宙全体のほとんどを占めてるのです」
ほとんど!? どういう意味?
「地球で“宇宙”と言ってるところは宇宙の端の端、そのまた端っこです。その小さな宇宙がいま通ってきたところです」
う~、むむ??ん
ちいさな宇宙ということは、それに対して大きな宇宙があるんだ、きっと!
それがここ!? そういうこと!!?
「そうです」
それで、今まで来たところが、、、え~? 小さい方!?
じゃあ、ロケット打ち上げたり、いろんな星を調べたりしている宇宙って小さい宇宙なんだ!
なんだぁ、宇宙開発とか良く人間は言うから、人間が主導して宇宙の一部でもコントロールしているのかと思っていた。
じゃあ、宇宙のほんのちょっとのことしか知らないんだ、人間は、、。
ふへぇ~!? ボクよくわからないなあ。
ロッコは漆黒の闇になにか騒がしさを感じてふりむいた。
ギラギラと光の束になっている星群をみつけた。記憶の回路の一部が騒ぎ始めた、。恒星が重なりあってものすごくきれいに輝いているのだ。
宝石みたいだ、、
あ、そうだ!
きいちゃんと追いかけごっこしていて、お母さんの部屋の棚の上にあった宝石箱を思いっきり床の上にひっくりかえしちゃったことがあった。

“うあぁぁぁ~~っ”
きいちゃんが真っ先に声をあげた。
“きれい、ステキィィ!“ 散らばった床もキラキラと得意げの様だった。
お母さんはあまり派手な宝飾品は持ってない。昨今の新しいものにも無縁だ。でもヴィクトリアンやジョージアンの良質のアンティークが大好きだ。クラシックで品のいい可愛いものばかりだ。
だから宝石箱から飛び出したのも、派手な光ははないけれど、時間を経てきた深い輝きをもっていた。きいちゃんとロッコは片付けるのも忘れてしばし見とれていた。
ロッコは、夜空に散りばめられたたくさんの恒星を見て、そのときのことを思い出していました。

80億光年もの所からこの広大な宇宙を、さらに、外側から包み込むように見守っているという愛の関門。
それに続く愛のエネルギー。

今、ロッコの目の前には、柔らかい上品な絹糸を紡いだような網目模様の巨大なネットが第二次空間の前に立ちはだかっている。見上げると、網目のひとつひとつの大きさが随分とまちまちだ。
このアミメモヨウ、四角の形がばらばらだね。
「そうよく気がつきましたね、これは宇宙にある全ての愛の形です」
ほんとう!?
「少しずつみんな違うでしょう?」
う?うん、。少しずつみんな違う。
「見てもわかるように、きれいな四角形はなかなかないでしょう?」
うん、、、。
蚊のなくような小さな声です。

「それだけ、本当の愛を育んでいくということは、強い意志と勇気がいるということです。地球では何の支えもない『愛』という名の感情が暴走しています」
地球では、、暴走!?、、でも
宇宙では、、地球は月にとっても愛されてるんでしょ。
「ええ、そうでした。でも月も少しずつ離れていってます、、」
どうして!? 地球と月はとても仲良しだと言ったじゃない。
「ながく、そういう時があったということです。いまや地球はとても身勝手に月を荒らし放題しています。勝手に穴を掘ったり、衛星の残骸のゴミ捨て場にしたり、月はとっても悲しんでいます。でも月が地球に恩義を感じてるのは変わりません。ですから少しずつ離れていっているのです」

月が離れると大変なこと?
「地球の軸がずれます。すべてのバランスが崩れていきます」
、、、? どんなこと、、
「たとえば、1年が365日でなくなる日もそう遠くではないでしょう」
365日でなくなる?365日と決まってるんじゃないの?
「いいえ」
ふえるの? へるの?
「どんどんへっていきます」
じゃぁ、地球の未来はどうなるの?
「未来のことはその星が決めるのです」
、、その星が決める、、、地球は大丈夫かなぁ。

不安気な表情のロッコは、もう一度“愛の関門”に目を向けてみました。
今のロッコの位置から見ると、一枚の巨大な布に見える。それはまるで、この世界のすべてを映す投射幕のように、宇宙を切り分けていた。

「こちらに来てみなさい」
言われた通りその人の横に行くと、やはり編目模様だ。不定形な四角形がおびただしい。

「地球の形をみてみる? ロッコ」
は、はい、、見れるんですか?
「もちろん、少し遠いけど。さっ、いらっしゃい」
と、ロッコの手とると、
ネットの横すれすれをすごいスピードで闇の奥、はるか彼方の見えない果てを目指すかのようにどんどん飛んでいった。
ロッコは棒のようになって、大気を切り裂いている。何かを突き破って進んでいるのを感じていた。
若い星群の固まりが、ネットに寄り添うように現れた。たくさんの光が元気よく放たれ、ネットもそれを受け白銀に輝いて美しい。そこもあっという間に過ぎ去って、しばらくして止まった。
ロッコは体勢を立て直して、ネットを前にしたその人の横に並んだ。ちょうど四角形が目の前にある。かなり正方形に近くきれいな形だ。でもよく見ると所々ほつれが激しい。だいぶ永い時間を経てきたことがわかる。

ロッコはこんな所に地球があるなんて、、それも、けなげに四角形を何とか保っている。この旅でこんな形で地球に会えるなんて、うれしくって、いままで会ったどの星のことより、いとおしく思える。
やっぱり、ボクは地球のいちいんなんだ!
宇宙に来て何度も感動したけれど、これが本当に最期と自分にいい聞かせながら目頭を熱くしてしまうのでした。

「ロッコ、まだですよ、。それは違う星。もうすこしこのまま待っててね」
え!?、、、、、、?
やがてネットが小刻みに揺れだし、ロッコの顔、体にも撫でるように何かが取りつき始めた。
風!? 宇宙に風?、、ある、、の?
「はい。、、今、たくさんの次元をこえてきました。ここが地球のある次元です。さあ、ゆっくり下がりますからね」

エレベーターで階下におりるように編目の一列を下っていった。
止まった。
はっ!と、息をのんだ。

「これが地球の『愛』の形です」
言われる前にロッコの目はその四角形に釘づけになっていた。

一目見れば忘れられない形の四角形です。
4つの線分の長さが、それぞればらばらでとても不安定です。いびつに歪んで、まわりと比べても異質なものをみているようです。宇宙に来て新しいことをたくさん吸収し、どんどん成長してきたロッコですが、いちばん大きなショックです。
地球のまわりを、もう一度見まわしても、みんな正四角形を保とうと必死な感じだけど地球にはそれを感じない。何か、哀しい、淋しい気持ちが高まって体中に流れる血液がどこかで急に冷やされてまた体に戻ってきたようにぶるぶるっと震えてしまいました。

「ロッコ」
ロッコはとても落ち込んでしまって感情の整理がつかない様子です。その人の呼び声も聞こえません。

「ロッコ」
そうだ!夢だ! いま夢の中だったんだ。そうに決まってる!なぁんだ、そうか、、夢を見ていたんだ。あぁ、夢なんだ。ロッコは答えを見つけることの出来ない状態に陥ると、夢の中の出来事にしてしまう癖があります。

「ロッコ」
あ、はい、、。あ、ボク、いま、夢をみていたみたいで、、
「夢ではありません」
夢じゃない!?
「ここは人類が、この後何年生きようと決してたどり着けない、未踏の領域と言いました。夢にも見ることが出来ません」
え? なんで!夢は自由でしょ?
お母さんは朝起きて笑いながら「ジョニー・デップとニューヨーク五番街をデートしちゃった」って、きいちゃんに言ってた。きいちゃんもよく、歌い終わってオペラ劇場で万雷の拍手を受けている夢を見るって、、、。

「夢でも見ることは出来ないの」
その人はロッコの言葉をさえぎるようにきっぱりといった。

そしてとても穏やかにこういった。
「ここは夢をこえたところなの、、」
夢をこえた!? こえた、、、?
「そう、夢をこえたところに、本当のことがあるの」
うぅぅ、、、、んんぅん!?
もう限界とみたその人はロッコの手を握り言いました。
「戻りましょう、ロッコ」
もどる?地球に?
「そう、」
う、ん!!
しばらく、ふわふわとしていた体に、だんだんと重さを感じ始めてきたとき、その人が優しく言いました。

「はい! 目を開けてごらんなさい」
わあぁあ、もどったんだぁ!
「この旅でロッコにようく解って欲しかったことは宇宙は常に愛にあふれていなければならないということ。それは地球もほかの星もみな同じ。とても大事なことです。
地球はその『愛』をとてもないがしろにしてどこかにおいてきてしまった。地球という星は、この広大な宇宙の中にたったひとつしかないのです。もっと自分たちの星を愛さなければいけません」

ボク、たぶん、、いま、誰よりも地球を愛していると、、おもう、。
「そ~っを! そう、感じているの! ロッコ!」
その人は、とても嬉しそうに弾んだ声でいった。

うん、きっと、、宇宙に行ったから、、ほかの星を見ていると自然と地球と比べていたし、、
地球の愛の形は、本当にショックだった、“戻りましょう“と言われた時、地球に帰れるんだ!ってお父さん達もきいちゃんも、とら吉親分たちも誰も浮かばなかった。ただ地球に戻りたい、、地球に、帰れるんだと、、、、。

「そう思えたのは、ロッコが宇宙でたくさんのことを学んだからですよ。地球は宇宙のいちいんという認識も、人間たちには、とても希薄です。宇宙開発という名目で勝手に穴を掘り、ゴミを捨て、と、地球の問題を宇宙にまでもってきてしまってる。こまったことです。でも、ロッコがみちびけば一部の人間でも気づく人達はいるでしょう」
その人は、さらにこう言った。
「人間世界には彼らが言うところの『罪』というものがあってみんな少なからずも犯してしまう宿命をもっています。でもどんな理由があったとしても、絶対にしてはならない『罪』があります。ロッコ、どんなことか分りますか?」
ボク一度、きいちゃんが持ってきたお弁当から、栗だけかってに食べちゃったことがあるんだ。
きいちゃん、すごく泣いていた。栗がない! 栗ないって!、、。
「それも『罪』のひとつですけれど、今話してるのはそういうことではありません。絶対犯してはならない罪とは、人が人をあやめることです。人が人をあやめていい理由は、万に一つもありません。一人の人間もあやめることは、許されないのです。こののち地球は人があふれるほど増えていきます。そして、そのすっかり独善的になってしまった気質から数限られた実りの奪い合いにむかっていくでしょう。そのとき人間は信じられないほど残酷になります。『罪』の意識も省みることなく、『智』にはかることなく、『理』に問うこともせず、躊躇せず、人をあやめてしまう。たったひとりでも、人の命が暴力的に奪われたとき、片手で握り締めた砂漠の砂が、指のわずかな隙間からこぼれ落ちるように、地球から『愛』の小さなかけらが剥がれ落ちていくのです」

うあぁ~じゃぁもう地球はボロボロだぁっ、。
「それなのにこの星では何百、何千と人をあやめたものが、治世をつかさどり、ともすれば権力者として歴史に名を残し、今では偉人としてあつかわれるしまつ。本当に、こんなことがいつまでも許されているなんて、、」

その人の美しい横顔は、深い憂いと悲しみに満ちてきました。
「この殺伐とした世界に、このことに答えうるたった一人の賢者さえ、私は見つけることは出来ませんでした。ここ5000年の間にも幾度も『愛』を説くべく賢者を送り込んだけれど、その言葉さえ好戦的な人間たちに、争いのタネにされてしまった。でも信じていました。きっとあなたが生まれてくるだろうことを、
ロッコ! 私は、あなたを待っていました」

ボクを!?
「そうです。ネコとして生まれてくるあなたを」

え!?、(ネコとしてうまれてくる、!?)
その言葉を聴いた途端、ロッコの脳裏にものすごい勢いで見たことも無い映像の断片がシャッフルされてるカードのように次から次へとめくられてどんどん過去にと、さかのぼっていきました。