第5章 id星

そのわるい星はもういない?
「この星の暴走は今でも続いています。いつ、どこから現れるか全く分かりません。
エネルギーが枯渇してくると音を求めて突如現れ、軌道上に美しく並んだ星に狙いを定め、次々とぶつかっていきます。その時、宇宙は信じられないほどの激しい騒音に包まれます。
星が破壊されていく音、衝突した時の衝撃音など聞くに堪えない音が瞬間、ひとつひとつの塊になってすごいスピードであっという間に次元をこえて四方八方に飛び散ります」

ギャギャ~ン、ドォゴ~ン、バコバ~ン、グギュ~ン、ガヒュ~ン
突然けたたましい音が鳴り響く。

こわ~いぃ~
ロッコはちいさな耳をさらに小さく手で覆いました。

「たくさんの星に被害が出ました」
地球は!?
「地球は、、」と、いいかけてロッコの顔をちらりと見て
「地球を目標にして、19世紀後半に月まで近づいてきたことがあります」
来たんだぁ、、。
「えぇ、月は地球に大変近いので、月の表面をジャンプ台がわりに軽くこするように当たって、跳ねあがった勢いで地球にと、、、、、考えた様です」
本当!? で、それでどうしたの?、、、
「当時人間社会は、“ついに地球は滅びる”と全世界が大混乱に陥り、時の天文学では、巨大な彗星と発表されて、その行動パターン、性格から著名な天文学者であり精神科医のフロインド・カプラー(Frenind・Kapler)によって“id星”と命名されました。
情報化社会がまさにスタートした頃の出来事ですから世界のマスコミに最初のキーワードとして“id星”という言葉が乱舞しました。
終末論がはやり犯罪、差別、誹謗、中傷などあらゆる階層の人々がその本性をむきだしに狂奔し死を畏れ、生を諦観し、邪教におぼれ自ら命を絶つもの、他人を殺める者が続出。大変な1年でした。
宇宙でも、地球のいる銀河の全ての星が、固唾をのんで見守っていました」

それで地球はどうしたの?
「その時は大丈夫でした」
月にぶつかってこなかったの?
「いいえ、ぶつかりました」
ぶつかっちゃったの!?
「はい、当たった瞬間、やはり、すごい音が宇宙の隅々まで響き渡りました」

♪MMOOOOOooooo~~~~~~~nnnnNNNN
今度は耳を塞ぐことはなかった。

ロッコの頭のてっぺんから入り込んだそのオトは、くまなく体の隅々にいきわたり、僅かな名残を残し、スーと足先から去って行った。とてもいい気分につつまれている。
自分の体を確かに通り過ぎて行ったオトに、不思議な心地よさを感じるロッコでした。

「いまも耳に残っています。とても心地よく、まるであたかも初めから用意されていたかのような美しい旋律でした。その音が響き渡った瞬間、その星は自身のコントロールを失い、地球とは反対の方向に跳ね返されてしまったのです。
何が起きたのか分らない様子でしたが、その星のプライドが許さなかったのでしょう。何度も何度も月に体当たりをしていました。月は宇宙でも美しい星のひとつといわれていましたが、もうボロボロにされてしまって、至る所穴だらけになってしまいました。それでも、ひたすら美しい旋律を奏でていました。
やがて力つきてしまったその星は転げ落ちながら去って行きました」

どんな感じ? どんな音だったの!? どんなにおい!?
「ロッコ、これは音楽よ! 人間が創り出した素晴らしい文化のひとつ。地球でいうところの17世紀後半のクラシックね。。バロック時代の“フーガ”という感じかしら、2重、3重と、、」
へぇえ、、、
でも、なぜ?
どうして去っていったんだろう?
「本当のことは分かりません。でも、、きっと、、」と、言いかけて、その人は
ロッコを見つめ躊躇した様子で言葉をのみ込んだ。

え!? どうしたの? それで?
「キライだったんでしょうその音が、、きっと、、だからもう地球の安全が保障されたという訳ではないですよ」と、早口で言った。
「でも月の必死の抵抗は称賛に値します。地球と月は昔からとてもよい関係ですから。月はもともと地球の一部から創られました。そのことを月は決して忘れてはいません。月が地球に抱いてる愛はとても一方的で深いのです。
ですから月は地球の周りをいつも見守るように回っているでしょ。そんな月のつよい気持ちが、この星の企みを上回ったのではないでしょうか」

フウ~ん、。
ロッコには未だ良くわかりません。
でもそうなんだ。月ってそんなに地球のことを思ってくれていたんだ。
また地球を狙ってくるかなぁ。
「さぁ、、、月にはそうとう懲りたみたいですけど、、でもこの星は自ら考えて行動する星です。このまま終るとは思えませんが、、。」
でももし体当たりされても地球なら大丈夫だよね!?

無邪気な様子で空を見上げてるロッコ。
これから出会う過酷な運命についてロッコは知る由も無く、つぶらな瞳は遠く宇宙に思いを馳せるように、ふたつの星となって輝いていた。

陽はすっかり昇り、すでに黄金色に輝くロッコに、なほも容赦なく照りつけ、ひと塗り分厚くなってギラギラと跳ね返っている。
黄金色の輝きにも、眩しさにも慣れてきたロッコは、少し寝不足気味と、むずかしいことばばかりに、頭も体もぐったり。
こういう時、ネコは気持ちのいい場所を探します。そろそろ失礼して眠りにつく準備に入りました。

夢うつつの中で、
これはもしかしたら夢の中のお話じゃないかなぁ。
そうだ、まだ眠っているんだ,夢を見ているんだ。
なぁんだ、おかしいとおもった。
だって、あんなむずかしいことネコに話す人、いるわけないもん、、、そうだ、そうだ。
それにネコが地球の代表なんて、
きいちゃんが聞いたら笑いながら怒るな、きっと、、。夢でよかった、、!

「いいえ、、」
さえぎるように、きっぱりと、その人の声が飛んできた。

わずかに振った顔の目元からキラララと、とても小さな星がひとすじ、足下に落ちていった。
ロッコは落ちたところを急いでみた。とても小さいが、ぷっくりとした星形の水滴が目に入った。直ぐにに崩れて床に染み込むように、形を失っていくのがわかった。

え~っ! 涙?
星は連鎖して次々に落ちてきた。そして次々に消えた。

わぉわぉわx@^¥!!
ほ、ほ、星から目が、、じゃ、じゃ、なくて、、目から星が、落ちてきたぁ!
ロッコは、生まれて初めて見るこの光景に息をのんだ。

その人は深いため息をつくと
「ロッコ、いい、、あなたはほんとうにたくさんの時間をかけて選ばれたのですよ、、、」
しみじみとしたその人の言葉は憂いに満ちてひどく淋しげだった。
ロッコは戸惑いながら、そんなに時間をかけて自分が選ばれたなんて、、
ことの重さに身を引き締めながら、眠気も去って行くのがわかった。
「そして、とてもたくさんの反対もあったの、、」
反対!? あ、れれ、はんたい、、も、、あった!?
「そう、、でもロッコしかいない、、という結論になったのです」
声が弾んでいる。
ハッとして見上げると、その人はもう別人のように晴れやかで恥じらんだ少女のように頬をローズピンクに染め、ロッコに微笑みかえした。