第3章 選ばれしもの

「ロッコ、こちらにいらっしゃい」
その人の手がロッコの頭のうえに静かに置かれました。

「さあ、立ち上がってごらんなさい」
立ち上がる? ロッコはどういう意味かわからずポカンとしていました。

「ロッコ、ようくお聞きなさい。これから話をします。今のあなたには難しいことばかりです。でもあなたにとって運命をきめる大事な話です。そしてそれを受け入れれば立ち上がることになるのです。あなたは唯一立ち上がることを許されたネコなのですから」

唯一?
ボクがゆるされた?
つぶやくようにくりかえしたロッコに、その人は微笑みながら大きくうなずいた。

何故ボクなの? どうして、、?
「あなたが選ばれたからです」
えらばれたって、!? なにから? ネコから? ネコの代表ということ?
「いいえ」
じゃぁ、どうぶつの代表?
「いいえ、生きとし生けるものすべてから」
、、、、、、、、、、。
「この世のあらゆる生き物の中からということです」
ほぇぇ~!ほんとうに、、、?
なんで? 僕はどうするの。

「あなたがすることは、いいえ、あなたしかできないことは、、この星を見守ることです」
この星って、、地球?
「そうです」
ボクが、?、 ネコのボクが、地球を、、

「ネコだからです。ネコだから、選ばれたんです。ネコはとても過小評価されています。ネコの自分自身を愛する気持ちの強さ、欲求を直接表す素直さ、何より、他の社会とあつれきを生まない賢明さ、人間社会ともイヌ社会ともこれほど永い間、自身の生き方を変えることなく、上手に関わりを持ってきた生きものは、他にはいません。
必要以上に相手の生き方を冒さない、共存することに何のためらいもない寛容さ。おもねることも、むやみにれいぞくすることもないプライドの高い生き物です。いつも、よりいいほうを向いて、昨日より今日、今日より明日と、、。
ネコは常に最適な居心地を求めることをやめない。しかも人間にこよなく愛され続けている。それは「愛されたい」というネコの強い思いが人間の「癒されたい」という気持ちを喚起させ見事に№1の立場を築きあげた傑出した共生哲学をもっているからです。今、この星はそんなネコをあらためて見直さなければならないのです。
やっとネコの時代がきたのです、、、
でも人間の変わること無い愚かさ、いつまでたっても互いに争うことを止めない愚かさの繰り返しを見ているともう遅いかもしれません」

え! おそい、、の?
「人間は生きる目的を見失ってしまっているようです。
“理想”を求めることも語ることもなくなり、“明日”を思う心も“昨日”を省みる心も失い、ひたすら“今日”の実利を得ることにしのぎを削りあってる。勝った負けたと、、どうしてしまったのでしょう人間は、、、。目に見えること、手に取れること、、形のあることしか信じられなくなってしまったようです」

ロッコは難しい言葉ばかりでまだよくわかりません。ただ、その美しい人の表情がとても豊かに変わるのでそれを見つめていました。

「200万年前、地球に人類の祖をおいてきて以来、現在の人間にいたる変遷を見ると、私たちのしてきたことは間違いだったと思わざるを得ません。これは、とても残念なことです」
そう言うと、その人はまるで自分が犯した罪のように本当に悲しげな顔をしてうなだれてしまいました。ロッコはいてもたってもいられず、でも、どうしたらいいのか、とてもこみいった話みたいだし、でも、何か一言、男の子として言いたい気持ちになっていきました。その時、その人はゆっくりと顔を上げて、

「ありがとうロッコ、まさにあなたが今、すこしのあいだでもわたしのことを、おもんばかってくれたこと、その心こそが、いまこの星の人々に必要なことなのです。ロッコ、胸に手を当ててごらんなさい」
ロッコは、言われたとおり右手を胸に当ててみました。肉球をとおしてかすかに心臓の脈打つ音がわかります。

「ひとりひとりが心の中で感じることや、言葉にしにくいことなど、形のないこと、目に見えないことをどこまで信じつづけられるかどうか、私たちはずっと見守ってきました。いつかきっとこのことの意味に気づき、人類がその存在の理由を心の世界の問題として捉え永い時間をかけて、深く深く掘り下げてくれると信じていました。それが、地球に生まれた人類の向かうべき道であり、この星の定めなのです」

さだめ?
「そうです。ロッコにはまだ難しいかもしれないけれど、、これは今話しておかないといけないことなので、、だいじょうぶ?」
ハイっ!と、はっきりと大きなお返事をしてしまったロッコ。でも実際は何のことやら全く解りませんでした。ただ“この人”に導かれることに、気持よく素直になれるのでした。